台本をパリピに丸投げしたら混沌しか生まれんかった
先生、これはだめです。
文化祭。
学生たちが一丸となって企画や出し物を作り上げる、超・青春イベントである。
そのなかでも目玉といえば、やっぱりクラス劇ではないだろうか。
私の学校でも、文化祭で劇があった。
当時の私は最初、脚本を担当するつもりだった。
テーマはポケモン。
それを聞いた瞬間、私の頭の中では、すでに壮大な物語が始まっていた。
ここで男子たちに格好いいダンスを踊らせて……。
いや、ダンスバトルにしてもいいな。
そこでサトシが登場して、最後はクラス全員で感動のフィナーレを…。
そんなふうに、クラスのみんなが輝く台本を書こうとウキウキしていた。
そのときだった。
担任が、ものすごく申し訳なさそうな顔で私のところへやってきた。
「しらすちゃん、ごめん。クラスの男たちがさ……台本なんかにとらわれず、好き勝手やりたいみたいで」
えぇ……?
台本なんかにとらわれず?
本当に大丈夫なのだろうか。
しかしこの担任、とことん気弱なおっちゃんであった。
「しらすちゃんは裏で小道具手伝ってくれるだけでいいから!楽にしてて!」
役者にもならず、舞台裏でのんびりさせてもらえる。
それはそれでありがたい。
私は、そっと脚本家の座を明け渡した。
私はストーリーをほとんど知らされないまま、小道具作りに専念することになった。
制作を指示されたのは、
大きなモンスターボール。
そして、白くて丸い物体。
以上。
うん。
不安しかない。
私はただ、どうか無事に終わりますようにと願いながら、白くて丸い何かを作り続けた。
文化祭当日。
ついに、我々のクラス劇の時間がやってきた。
さあ。
私を脚本から追い出してまで作り上げた物語とは、一体どんなものか見させてもらおうじゃないか。
舞台のカーテンが開く。
中央には、キャップをかぶった少年がいた。
三角座りでうつむき、微動だにしない。
ナレーションが流れる。
「昔々、あるところにサトシという少年がいた」
ああ、やっぱりサトシか。
主人公何してんの?
「サトシは引きこもりであった」
引きこもんなよ。
最初から終わってんじゃねーか。
ポケモンマスターになるどころか、マサラタウンから一歩も出てないぞ主人公。
「そんなサトシの元に、訪れる者が1人いた」
舞台に登場する、クラスで1番大きくて熊さんみたいな男子。
「おぅ、サトシ」
低く、渋い声。
「引きこもってるんやって?
そろそろ外へ出たらどうや」
いい奴だ。
彼は一体、誰を演じているのだろう。
サトシの歴戦のライバル?
それとも、私の知らない関西弁の新キャラだろうか。
サトシが顔を上げる。
「あ、カビゴン」
カビゴンかよ。
なんで妙にダンディなんだよ。
なんで普通に家入ってんだよ。
「嫌だよ、一生家でゲームしてたい」
「おふくろが悲しむぞ」
「じゃあカビゴンもついてきてよ」
「せやな…お前が俺を捕まえられたらええで」
その言葉を聞いてサトシは、自分の顔の二倍くらいある巨大モンスターボールを持ち上げる。
あ。
私が作ったやつ。
次の瞬間、サトシはそれをカビゴンに向かって全力投球した。
ひらりと避けるカビゴン。
もう一度投げるサトシ。
また避けるカビゴン。
サトシが投げる。
カビゴンが避ける。
その攻防が、まさかの3分間続いた。
「くそっ……!」
「はっ……もう終わりか?」
長いよ。
さっさと捕まれ。
観客席も「そろそろ捕まってくれないかな」
みたいな顔してるって絶対。
ようやく空気を読み、カビゴン捕獲。
そしてサトシとカビゴンは、やっと次のステージへ向かった。
移動途中、白い髪のかつらをかぶった、高身長の女装男子が、お腹を押さえながら二人の前に登場。
「あ、エルサ」
エルサかよ。
急にディズニーをぶち込んできた。
どうやらサトシの幼なじみ設定らしい。
世界観が国境を越え始めている。
「どうしたんだよ、腹いてーのか?」
「えぇ、ちょっと…病院に行ってくるわ」
エルサはお腹を抱えたまま、舞台裏へ消えていった。
特に深く追及することもなく次の場所へ向かうサトシとカビゴン。
すると今度は、謎のモブたちが現れた。
「サトシぃ!待ってたぜぇ!」
通りすがりに勝負を仕掛けてくる奴だろうか。
なんか、治安わりーなこのポケモン。
「いけ、カビゴン!」
サトシの合図とともに、カビゴンがモブたちへ体当たりを始める。
次々となぎ倒されていくモブ。
暴君である。
モブを全て蹴散らした、その時。
プルルルル…
舞台上に、電話の着信音が響いた。
カビゴンがポケットからスマホを取り出す。
「もしもし」
いや、お前のスマホかよ。
当たり前のように使ってんじゃねぇよ。
「サトシ、大変や。エルサが!」
ど、どうしたエルサ。
まさか、重い病気なのか?
「お前との子どもが生まれるらしいぞ!」
わぁー。
とんでもねぇ設定をぶち込んできたぁ。
ざわめくギャラリー。
ざわつく教師陣。
やってんなぁサトシ。
やってんなぁ男子共。
なんで止めんかったん担任。
しかし舞台は止まらない。
サトシとカビゴンは、急いでエルサのいる病院へ向かう。
「エルサ!大丈夫か!」
「ええ、でも……」
どうやら出産は終わったらしい。
エルサはベッドの下をゴソゴソと探り、何かを取り出した。
「卵なの!」
卵なの????
「えぇ!?ど、どうするんだよこれ」
「歩くの!!!」
歩くの????
なんで???
……あ。
そこで私は、ようやく気づいた。
そういえば、この頃はポケモンGOが大流行していた。
ゲームの中で卵を手に入れたら、一定の距離を歩いてポケモンを孵化させるシステムであった。
なるほど。
つまり、そういうことか。
理解はした。
納得は一切していない。
したくない。
そして舞台上ではサトシ、カビゴン、エルサ、そして先ほど倒されたモブたちまでが列を作り、卵を持って歩き始めた。
チャンチャンチャンチャン♪
軽快な音楽に合わせ、全員で舞台をぐるぐる歩き回る。
出産直後のエルサも、元気にドスドス歩いている。
驚異の回復力である。
やがてサトシが叫んだ。
「生まれるぞ!」
壮大な誕生ミュージックが流れる。
パカッ。
卵の中から現れたのは、白くて丸い雪だるま。
「僕、オラフ! ぎゅーっと抱きしめて!」
お前かよ。
カオス。
カオスである。
皆が意味不明すぎて困惑する中、舞台袖からスッと出てくる、うちの学級委員長。
吹奏楽部である彼は、美しい姿勢でトランペットを構えた。
プププー♪
プププー⤴︎♪
クラスの男子たちが生み出した混沌の物語を、学級委員長の美しい『Let it go』が包み込む。
そして、そのままカーテンは閉じた。
こうして我々のクラス劇は、まばらな拍手と無数の困惑を残して幕を下ろした。
文化祭終了後。
担任は校長室へ呼び出された。



これ、今だと脚本家(しらす)がついてたからまだ読めたけど、リアルだとどんなだろ、、、
サトシとカビゴンのどっちがパパだ問題で昼ドラ展開!?
なんてさらなるカオスを提案したかった、くそっ、その場にいれなかったのがくやしい、、、
担任の先生、やっちまいましたね…。3分間のモンスターボールのかけ合い、客席がドン引きしていく光景が頭に浮かびます🤣