社会の窓4センチを聖母マリアで閉じたクリスマス
開国を、阻止せよ。
今日はクリスマスの時の話をしましょう。
「なんで7月末になってクリスマスの話をするんだよ」って?
だまらっしゃい!暑いからだよ!!
冬の話でもして気を紛らわせないと、私もお前も仲良く蒸し鶏になっちまうぞ!!
……ごほん。
失礼しました。
それでは、語っていきましょう。
※多少センシティブです。
苦手な方はご注意ください。
あれは私が20代前半の頃。
当時の私は、彼氏がいなかった。
友達は次々に恋人との予定を立て始めた。
私の予定表は白紙だ。
レミオロメンが『粉雪』を歌い出すくらいには真っ白だ。
12月に入り、私はとうとう最終手段を試みた。
マッチングアプリである。
彼氏までとは言わない。
いい感じの男と、素敵なクリスマスを過ごしたい。
そんな私の前に、意外にも条件の合う男はすぐ現れた。
アイコンの雰囲気、よし。
会話のテンポ、よし。
クリスマスの予定、空いている。
よし。
今年はこの男にしよう。
人生でクリスマスなんて何十回も訪れるのだ。
一回くらい、マッチングアプリで出会った男と過ごす年があってもいいじゃないか。
何事も経験である。
そして、クリスマス当日。
私は少しだけ気合いを入れた服を着て、待ち合わせの駅へ向かった。
駅前には、幸せそうなカップルが大量発生している。
ここは人類繁殖推進会場か。
ふん、待っていろカップルども。
今から私にも男が来るのだ。
私は胸を高鳴らせながら、彼を待った。
そして、ついに男が現れた。
……
なんかぁ、思ってたんと違う。
アイコン詐欺……までではない。
でも、なんか違う。
ゴホン。
だめよ、しらす。
人間、大切なのは中身だ。
彼は、とてもフレンドリーだった。
そして自信満々にこう言った。
「俺の得意料理、振る舞ってやるよ」
おお。
クリスマスに手料理。
ローストチキン?
ビーフシチュー?
もしかしたら、しゃれたアクアパッツァなどが出てくるのかも?
少しだけ期待しながら、彼とスーパーへ向かう。
すると彼は、迷いのない足取りで食材をカゴへ入れ始めた。
パスタ。
たらこ。
バター。
海苔。
……
たらこスパゲッティかよ。
いや、いいんですよ。
たらこスパゲッティ、美味しいですよね。
私も好きです。
でも、今日はクリスマス。
街中が赤と緑で浮かれている聖なる夜。
チキンもケーキも、すぐそこにあるのに。
まったく迷うことなく魚卵を選ぶとは。
少しだけ。
少しだけ、帰りたくなった。
でも、こんなに自信満々にたらこスパゲッティを作ろうとしている彼を置いて帰るほど、私は冷たい女にはなれなかった。
彼の家へ到着。
手際よく調理が始まり、しばらくして、たらこスパゲッティが完成した。
とても美味しかった。
時は過ぎ22:30。
たくさん話したし、頃合いだろう。
そろそろ帰るよ、と言おうとしたその時だった。
急に、男との距離が近くなる。
……ん?
そして次の瞬間。
私はベッドに寝かされていた。
あ。
やばいかも、これ。
男は私を見下ろしニヤリ。
そして一言。
「いい?」
よくないです。
全然よくないです。
「な、なにがぁ?」
私はとぼけた。
芝居が下手すぎる。
この演技力で騙せるのは、寝起きのカブトムシくらいだろう。
当然、男は止まらない。
ゆっくりと己のアクセサリーを外し始めた。
指輪。
ネックレス。
まずい。
非常にまずい。
考えろ、しらす。
今までの人生で得た知識を総動員しろ。
この状況を回避するため、脳みそをフル回転させて私の口から飛び出した第一声。
「〇〇君は優しいから、そんなことしないよね?」
命乞いかい。
「いや、俺は優しくないし、悪い男だよ」
ノーダメージかい。
そして男は、そっと己の社会の窓へ手をかけた。
いかん。
絶対にそこは開国させてはならない。
「そんなことない!! 優しいよ!!」
ジジッ。
社会の窓が、上からゆっくり降りてくる。
2センチ。
待て待て待て待て!!
誰が開けていいと言った!!
「な、何か過去に嫌なことがあったからでしょ?」
ジジッ。
4センチ、開国。
あああああ、やばいです!!
サンタさん助けて!!
「本当は!! いい子なんだよね!!」
もう完全に、赤っ鼻のトナカイをなだめるテンションである。
「はっ……お前に何が分かるんだよ」
彼の手が止まった。
今だ。
この一瞬を逃してはいけない。
今まで見てきた青春ドラマのヒロインたちよ!!
我に力を!!!
私は、できる限り真っすぐ彼の目を見た。
「今は分からないよ」
「でも、これから君の事を知ろうと思ってる」
彼は社会の窓を4センチ開けたまま、無言で固まっている。
その隙間から、真っ青のボクサーパンツが見えていた。
ああ、晴れやかですね。
曇り一つない、見事な青です。
素晴らしい、快晴だ。
「たくさん話してきたから、少しは分かるよ」
「私から見た〇〇君は、すごく素敵な人だった」
長い沈黙。
そして。
「……グスッ」
あれ。
彼の目がなんか潤んでいる。
え。
なんか泣き出した。
4センチ開国したまま、泣き出した。
「そんなこと言ってくれる奴……初めてで……」
私はベッドの上。
目の前には社会の窓を4センチ開放した男。
ナニコレ。
その後、私は「辛かったね」「大丈夫だよ」と、男を励まし続けた。
あの瞬間、私はもうただの女ではなかった。
聖夜に舞い降りた、聖母マリアであった。
やがて彼は落ち着いた。
ジジッ。
閉国。
勝った。
私は聖母マリアで開国を阻止したのだ。
その後、無事に彼の家を出た。
別れたあと、私は彼をブロックした。
聖母マリアは、いつまでも地上にはいない。
クリスマスが終われば天に帰ります。
あの時の彼、今頃どうしてるかな。
元気にしているだろうか。
まあ、色々あったけど。
あのたらこスパゲッティは、本当に美味しかったぜ。



しかし、なんで家にいったんだ?見え見えじゃないか・・・野郎の下心が。
過去の(オタク)知識が救ってくれましたね。元気にしてると良いですね。たらこスパ食べたくなってきた🤣