先日、フォロワーのZEROさんが私に曲を作ってくれた。
そのうちのひとつに、人魚姫をテーマにした曲があった。
原作の人魚姫は、脚と引き換えに声を失う。
そして、ZEROさんの曲に出てくるしらす人魚は素顔を失い、紙ペラになった。
改めて考えると、なかなか厳しい交換条件である。
好きな人に会いに行って、しかも結ばれなくてはいけないのに、声がない。
何も伝えられない。
素顔を晒せないというのも、それはそれでだいぶ困る。
恋が叶わず泡になった時、紙だけは残るのかな。
城の額縁に飾ってくれるかなぁ、王子。
まぁそんなことは置いといて。
……もう少し魔女に交渉できなかったのだろうか。
「声とか顔はちょっと困るんですけど、ほかで何とかなりません?」
私なら一度は聞く。
魔女も商売なら、いくつかプランを用意しておいてほしい。
ライトプランとか。
プレミアムプランとか。
そこで今回は、
もし人魚姫が、声以外の何かを取られていたら恋は実るのか。
勝手に考えてみようと思う。
① 前歯
声は出る。
想いも伝えられる。
しかし、人魚姫は王子の前で常に口元を隠している。
王子が微笑む。
姫も笑いたい。
でも歯だけは。
歯だけは見せるわけにはいかない。
「……どこか痛むのかい?」
心配する優しい王子。
いいえ。
痛む段階は、魔女のところで終わっています。
事情を知った王子は、すぐに城の歯医者を手配してくれた。
優しい。
好きだ。
だが、恋をしに陸へ上がったはずなのに、最初に大きく口を開けた相手は歯医者だった。
「もう少し大きく開けてください」
思い描いていた展開と、だいぶ違う。
だが歯医者の力で、人工の歯は得られそうだ。
魔女より偉大である。
② 髪の毛
「声を残すなら、髪を全部いただこう」
魔女がスッとバリカンを取り出す。
家庭に一台、よくあるやつ。
一気に世界観がファンタジーから現実になった。
「…毛先だけじゃだめ?」
「全部だ」
くっ。
交渉の余地がない。
全部剃られた。
陸へ上がった人魚姫は、王子と海辺を散歩する。
王子、絶対内心ちょっと困惑してるんだろうな。
ビュオッッ!!
風が吹く。
王子の美しい金髪がなびく。
姫の髪は動じない。
というか、ない。
髪を耳にかける仕草で色気を出そうとして、耳を直接なでる。
王子が不思議そうに見る。
「……耳がそこにあったので」
王子は何も言い返さなかった。
心までイケメンだ。
一方その頃。
魔女は奪った長い髪を、鏡の前でウキウキと合わせていた。
お前が使うのかよ。
③ 声量の調節機能
声そのものは残っている。
ただし、常に最大音量だ。
「君の名前を教えてくれるかい?」
「はい!!!
人魚姫です!!!!!!!!」
バサバサバサッ!!
城の鳩が一斉に飛び立った。
その後、なぜか王子との距離は順調に縮まり、二人きりの夜を迎える。
なぜ距離が縮まったのか。
王子が難聴だったことにしておいてほしい。
じゃないと話が進まない。
いい雰囲気の二人。
人魚姫は、そっと王子に顔を近づける。
そして息をスゥッと吸った。
「あなただけに!!!!
お伝えしたいことが!!!!」
「王子ぃ!!!! 大丈夫ですか!!!!」
衛兵が駆け込んでくる。
襲ってないです。
いや、この後はわかりませんけど。
とにかく、今から愛の告白をするところなので出ていってもらってよろしいか。
結局、その夜の恋心は王子だけでなく、衛兵8名と廊下にいたメイド数名にも伝わった。
翌朝には噂が城下町まで広がり、パン屋のおじさんまで私を応援してくれていた。
めでたしめでたし。
④ 心の声を隠す能力
「お会いできて嬉しいです。顔がいい」
初対面から、いらん声まで漏れる。
「ありがとう。遠いところから来たんだね」
「はい。うわ、近くで見るともっといい結婚したい」
展開が早い。
まだ城に案内すらされていない。
城へ向かうと、そこへ一人の女性がやってきた。
「王子、こちらにいらしたのですね」
人魚姫は優雅に微笑んだ。
「初めまして。誰この女?」
王子が振り返る。
「…姉だよ」
「そうでしたか。うわーーーよかったーーライバルじゃなくてよかったーーー」
何がよかったのかまで、全員に伝わる。
王子への好意に誤解は生まれないだろう。
ただし、もう少し隠しておいたほうがいい部分まで、全部届く。
魔女が奪ったものの名は、恋の駆け引き。
ロマンスを返せ。
⑤ 記憶
砂浜で目を覚ます。
脚がある。
声も出る。
前歯も髪も、その他の能力も無事だ。
だが、ここがどこなのかわからない。
駆け寄ってきた王子が、優しく手を差し伸べる。
「大丈夫かい?」
「……どちら様ですか?」
会いたかった人との再会が、身元確認から始まる。
岩陰では、心配して様子を見に来た魔女が頭を抱えていた。
人魚姫と目が合う。
魔女は必死に口を動かす。
「そ・の・ひ・と」
「あ・な・た・の・す・き・な・ひ・と」
人魚姫は、王子へそっと身を寄せた。
魔女がパァァッと顔を輝かせる。
そうだ!!
その調子だ!!
「あの人、さっきからずっと私を見ています」
「君の知り合いじゃないのかい?」
「いえ、知りません」
王子は人魚姫を背にかばい、衛兵を呼んだ。
捕らえられる魔女。
魔女は契約書を振り回しながら、必死にもがいている。
「待てぇ!!!! 同意は得ている!!!!」
不審な女から守られたことで、無事に恋が発展し、物語は軌道に乗った。
結論。
この中なら、記憶を取られるのが一番物語的には不利だと思う。
魔女が。




何気に③の声量調節機能が、めでたしめでたししてるのが、めっちゃツボにくるww✨🦋
歯も、歯医者さんさえ乗り切ればいけそう🤣
結論!やっぱり交渉は必要!
素直に声だけ奪われていた方が、色々都合良さそうですね🤣🤣🤣