閻魔様不在につき、私が代わりに裁きます(後編)
あの世、崩壊。
前回のあらすじ
しらす閻魔の前に現れた、4人の亡者たち。
1人目は、私の秘書になった。
2人目は檻を破壊し、現在も獄卒たちを追いかけ回している。
3人目の変態紳士は、地獄へ移送中。
そして4人目は、地獄で導線を配管している。
ああ!なんてこった!!
今日は、地獄行きの搬送装置が故障しているじゃないか!!
一体誰がこんなことを!!
装置の横には前回の2人目の亡者が立っていた。
口から外れたレバーがはみでていた。
おまえかよ。
地獄からなぜここまで登ってこれた。
仕方がないので、新たにやってきた亡者たちは全員、裁きの間の隣にある待合室で待機してもらうことになった。
これが、すべての間違いだった。
【5人目】メンヘラなアラフィフおじさん
「次の方、どうぞ」
秘書になった1人目が、慣れた手つきで亡者を案内する。
完全に職員の顔をしている。
まだ入社初日なのに。
現れたのはメンヘラのアラフィフおじさん。
なぜ私の前にはこんなにクセの強い亡者ばかりが集まるのだ。
見た感じ単純に可愛い生き物ですけども…
なに?彼の生前の写真が届いた?
どれ、見せてみなさい。
…
絶対メンヘラじゃないって。
めっちゃムキムキだもん。
だって赤フンだもん。
なんか変なの被ってるし。
こっち見てくんな。
その写真を横からのぞき込んだ2人目が、目を輝かせた。
「強そう!」
やめろ。
仲良くなろうとするんじゃない。
仮にこの男を地獄へ送ったとしても、その筋肉と赤フンだけですべての刑罰を乗り越えてしまう気がする。
針の山は踏み砕き、血の池はバタフライで泳ぎ切り、鬼たちとは肩を組んで帰ってくるだろう。
怖い。
天国でいいです。
もう、早く連れていってください。
【6人目】遊び遊ばれし者(天使の追っかけ)
天使の追っかけをしているそうだ。
推しているだけなら問題はない。
節度を守り、迷惑をかけず、決められたルールの中で応援する。
それなら天国でもいいだろう。
「分かります」
待合室から3人目が深くうなずいた。
「美しい存在は、少し離れたところから静かに見守る。それが紳士のたしなみです」
あなたが言うと、一気に犯罪の香りがするな。
プルルルル…
秘書が受話器を取る。
「はい、しらす閻魔事務所です…ああ、天国総務部のオカンさん。いつもお世話になっております」
会社になってる。
『なあなあ!そっちに天使の追っかけをしている亡者おらん!?』
秘書がこちらを見た。
私は亡者を見た。
6人目は目をそらした。
「今、目の前におります」
『そいつな?天使の1人が、ストーカー被害で告訴してんねん!』
室内が静まり返った。
すると待合室にいた8人目らしき男が、小さく手を挙げた。
「そういえば、ずっと後をつけてましたよね?」
地上から見ていたのか。
順番が来るまで待っててください。
「はい、はい…了解しました、地獄でしばらく待機させます。」
急遽地獄行きになった。
3人目がなんかそわそわしている。
「同じ趣味を持つ者同士、道中で語り合おうかと」
余計な知識を共有するな。
地獄輸送担当の冬眠中のKさん、早くその2人を連れて行ってください。
こんなところで冬眠しないで。
猛獣に襲われますよ。
【7人目】しらすを釜揚げにする会代表
地獄です。
早くこいつを地獄へ送ってください。
肩書きから既に私に対する殺意を感じる。
「しらすを釜揚げにする会」とは何だ。
しかも代表。
会員までいるのか。
「現在、38名です」
答えるな。
というか、見た目的に職員側ですよね?
見た目が亡者を捌く側の人間なのですが。
『そういえば地獄の釜茹で部門、人手不足らしいですよ』
4人目がひょこっと顔を出してきた。
なぜ地獄の人事情報を把握している。
『配管を全部つなぎ直したので、釜の数が増えました』
勝手に増やすな。
私はため息をつきながら、地獄から届いた職員募集の書類を取り出した。
働いてもらいましょう。
その情熱を、適切な対象へ向けてください。
と、その前に、雇用契約書へ一文を追加する。
業務上、しらす閻魔を茹でてはならない。
【8人目】来世は猫になりたい、まさひろ
ああ、あなたですか。
ずっとこっちに来たら言いたかったことがあったんですよ。
あなた、ずっと地上でから天界を見てましたよね。
毎回視線を感じていたんです。
プライベートでも目が合って気まずかったっていうか…
すると、地獄行きを待っていた6人目が身を乗り出した。
「天界を見るなら、北側にある雲の隙間がおすすめですよ」
天界の穴場ストーカースポットを共有するな。
しかも詳しい。
だから告訴されるんだよ。
まあ、見てただけだし、天国で良いでしょう。
それに、本人には来世の希望がある。
転生先人事部の弁慶さん。
この人の来世は望みどおり猫にしてやってください。
…ああ、4人目と導線を配管するのに忙しいみたいですね。
後でまた頼んでおきます。
その瞬間、9人目が待合室から叫んだ。
「いいえ!その方はしらす教の公式マスコットにしましょう!名前はしらにゃすです!」
まだお前の番ではない。
そして名前を勝手に決めるな。
ただし、転生前に天界を凝視する癖は直してください。
猫になっても、今度は屋根の上から見てきそうなので。
【9人目】しらす教大罪司教・怠惰担当
ついに狂信者が来てしまった。
肩書きは、しらす教大罪司教・怠惰担当。
名前からして働く気がない。
普段はどんな活動を?
…ふむ、布教活動、ですか。
その活動は毎回ちゃんとしてくれてるんですよね。
提出された活動報告書は分厚かった。
思ったより働いている。
信仰心のあるものは天国へ…
いや待てよ。
送ってしまったら、彼は布教活動が出来なくなるのでは?
それは困る。
非常に困る。
信者の数は、今後の閻魔運営にも関わってくる。
秘書も後ろで無言でうなずいている。
どうやら広報予算が厳しいらしい。
仕方ない。
あなたは現世に戻り、引き続き布教活動に励んでください。
現世へ戻る直前、9人目は待合室を見渡した。
「赤フンの方を、筋肉布教部長に推薦したいのですが」
勧誘しないでください。
本人も乗り気な顔をしないで。
【10人目】相方の面白さを世に放つ人
次の亡者の経歴書には、こう書かれていた。
相方の面白さを世に放つ人。
……いい人なのでは?
相方の面白さを世に広めたい。
自分が目立つのではなく、相方の魅力を伝えようとしている。
なんと思いやりのある亡者だろう。
彼は天国へ。
え?彼ではなく、彼女?
いや、でも見た目は完全に男……。
すると本人が説明を始めた。
「外は男で、中身が女です」
なるほど。
「相方は、見た目が女で、中身が男です」
なるほど???
5人目が腕を組む。
「筋肉があれば、どちらでもいいのでは?」
今は筋肉の話ではない。
6人目も、獄卒の横から口を挟む。
「推しに性別は関係ありません」
お前はまず距離感を学べ。
地獄へ就職することになった7人目も、雇用契約書を持ったまま言った。
「茹でれば、みんな同じです」
一番怖い意見が出た。
ああ、もうわからなくなってきた。
一旦保留でお願いします。
そんな中、10人目が待合室の亡者をぐるっと観測していた。
目がみるみる輝いていく。
「この人たち、全員面白いですね」
嫌な予感がする。
「相方と一緒に、世に放ってもいいですか?」
放つな。
世界が滅びてしまう。
ついに10人の裁判が終わった。
疲れた。
もう、本当に疲れた。
1人目は、すっかり秘書業務に慣れている。
2人目は、また獄卒を追いかけ回している。
3人目と6人目は、地獄への道中で意気投合している。
4人目と7人目は、釜の配置についての打ち合わせを。
5人目は、天使と筋トレ。
8人目は、天界を笑顔で見ている。
9人目は、現世で新しい信者を勧誘する気満々。
そして10人目は、この地獄絵図を相方と一緒に世へ放とうとしている。
まとまりがない。
しかし、妙に楽しそうではある。
ようやく今日の仕事が終わる。
そう願いながら、私は次の亡者の書類を開いた。
そこには、こう書かれていた。
「しらす閻魔を踊り食いする会・名誉会長」
……。
もういいよ。
閻魔の仕事は、これにて終了です。
【しらすの犠牲者】
【ちょこっと出演】
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いくら周りが犯罪だなんだといっても
告訴できるのは本人のはず!
ちゃんと被害届でてますか???
本人がまんざらでもないならそれはそれでありだとおもうのです!!(真顔)
すでにここが地獄と化している!!
お疲れ様です。
秘書としては、しらすんの疲れを取る手はずを整えつつ、次のスケジュールを伝えなければならない。