名前は一種の呪いである
両親からのプレゼントは、ときどき期待という呪いになる
名前。
それは両親からの初めてのプレゼントとも言える。
最近は、ときどき二度見してしまうような名前もある。
獅子と書いて『れお』とか。
読みはまぁ理解できる。
しかし、生後3日前後で既に百獣の王を背負うとなると、結構荷が重いなぁと思ったりもする。
とはいえ、私も他人の名前をあれこれ言える立場ではない。
しらすの中の人間も、実は割とキラキラネームを背負わされている。
何を背負わされているかって?
『姫』である。
プリンセス。
ロイヤル。
生まれながらにして高貴。
なぜこのような名になったのか。
その一。
どこの誰かも知らん占い師が、勝手に私の名の画数を指定したから。
そのニ。
父が戦国武将オタクであったから。
お姫様っていいじゃんよ、と。
つまり、うん。
深い意味はない。
愛しき娘の人生を左右するわりに、決め方がとてもサラッとしている。
占い師が「はい、◯画と◯画、そして9画で考えてね〜」と画数を出し、
父が趣味の戦国を持ち込み、
母が「じゃあ、それで」と言ったのだろうか。
ちなみに、候補の中には「オトヒメ」もあったらしい。
危なかった。
一歩間違えれば私は、公共のトイレで清らかな流水音を流す女になっていた。
こんなにも重要な話し合いに、なぜ本人が参戦できないのだ。
せめて胎動で賛成か反対かを表明させてほしい。
何とも、もどかしい話である。
最終的に仕上がった私の名は、まぁまぁ可愛らしいが、それと裏腹に背負った人生はハードモードである。
何がハードモードか。
まず容姿。
名前に「姫」が入っている以上、姫を名乗るにふさわしい見た目でいなければならない。
透き通るような肌。
長いまつ毛。
風になびく髪。
優雅なほほ笑み。
勘弁してくれ。
人生で一生それを意識するそんな窮屈な毎日はごめんだ。
それに性格上、私は畑から掘り出されたばかりの、土つきジャガイモみたいな女である。
なのに名前を名乗るだけで、相手は勝手に私への期待を膨らませる。
マッチングアプリなんかがいい例である。
「姫がつく名前なんだから、きっとかわいらしい子なんだろうなぐへへ」
まだ会ってもいないのに、名前のせいで相手の私への期待値がめちゃくちゃ上がっている。
実際会う。
…ちょっと残念そうな顔をするんじゃねぇよ。
勝手に期待したのはそっちだろ。
私は何も悪くねぇからな。
初めての自己紹介も、毎回なかなかであった。
名前を名乗ろうものなら、
「姫…?」
「あいつ、姫だってよ…」
周りがざわめく。
ざわめくな。
王位継承者が参上したわけではない。
入学、入社共に、だいたい最初についたあだ名は「姫」であった。
何もしていないのに、名前だけで周囲に従者が誕生する。
正直、気分は悪くない。
名前だけとはいえ、姫扱いされるのはちょっと楽しい。
ただし、それも長くは続かない。
しばらくすると「こけし」やら「ぬめってそうなやつ」やらにあだ名が降格する。
王政の崩壊が早すぎる。
こんなに早いなら最初から敬うな。
仕事をする上でも大変である。
名刺を出すたびに、相手が名前と顔を二度見する。
一度、名前を見る。
次に、顔を見る。
もう一度名前を見る。
姫の答え合わせをするんじゃない。
「すてきなお名前ですね」
「ご両親は、どんな思いでつけられたんですか?」
高確率で突っ込まれる。
「知らん占い師のセリフからです」とはさすがに言えない。
とりあえず笑顔で、「父が戦国好きでして…」
と答えている。
父よ。
そなたの一時期のテンションで、娘は一生初対面の相手へ命名秘話を説明しているぞ。
考えてみれば、名前とは不思議なものだ。
本人がどんな顔になるのか。
どんな性格になるのか。
何を好きになるのか。
まだ何ひとつわからない時期に、一生使う看板だけが先に決められる。
そして周りは、その看板から勝手に人物像を想像する。
そう考えると、名前はプレゼントであると同時に、一種の呪いなのかもしれない。
期待という名の、ささやかな呪い。
…と、一通りここまで散々愚痴を書いたが、私はこの名前をなんやかんやで気に入っている。
あまり被る名前でもないし、ちょっとレア感があって良い。
しかし、一つ問題がある。
おばあちゃんになっても、私は「姫」を名乗り続けるのだろうか。
白髪になり、腰を曲げ、病院の待合室で、
「○○姫さーん」
と呼ばれる自分を想像する。
その頃にはもう、姫というより女王である。
できれば還暦あたりで、自動的に昇格させてほしい。
姫から女王へ。
名前にも、年功序列があっていいと思う。




しら○姫、ここに爆誕。
しらす姫さん、おはようございます🤣
いや、きっとご両親も大きな願いを込めて命名されたと…思いま…す……よ?教祖様にピッタリ👍👍👍