うすしおとチャーハン味の夜
定番か、期間限定か。
今から約50年前の秋。
この私、うすしお味は誕生した。
オレンジカラーの派手なボディ。
センターに引かれたブルーのライン。
そしてなんか…スポンジだかポテトだか分からんマスコットキャラ。
もはやこのパッケージを知らない者などいない。
スーパー、コンビニ、ドラッグストア。
どこへ行っても私はいる。
その安心、安定感はポテトチップス界の実家と言っても過言ではない。
しかし…
私は向かいにある小さめのワゴンを見る。
そこにわんさかと盛られている、あいつ。
ワゴンには赤と黄で主張された『期間限定』の文字がデカデカと貼られている。
彼のボディを見る。
焦がしニンニクのマー油と葱油が香る
ザ☆チャーハン味。
…なるほど。
またクセの強い若造が来たようだ。
私は『期間限定』の若造共が気に食わない。
今まで見てきた中では、『ショートケーキ味』なんてものもあった。
ショートケーキ味ってなんだよ。
塩なのか砂糖なのかはっきりしろ。
なぜ会議で誰も止めなかった。
しかし人間という生き物は、『限定』という言葉に本当に弱い者ばかり。
絶対やめとけよ!という味にすら手を出す。
そして売れる。
理解できない。
本当に理解できない。
私は何十年もここにいる。
王道として、棚の真ん中にいる。
それなのに人間は、こういう若造へふらふら吸い寄せられるのだ。
浮気者!
この浮気者!!
私という『うすしお味』がいながら!!
『コンソメ』とか『のりしお』の定番同期なら百歩譲って分かるさ。
しかしなぜあんな期間限定の若造どもに!!
あんな奴、ただ見た目が派手でギラギラしてるだけじゃないか!
気分はまるで恋人を寝取られた乙女である。
ある日の深夜二時。
店内は静まり返っていた。
冷蔵ケースの低い音だけが、ぶーーんと響いている。
そんな時、あの期間限定の若造が私の隣に並んできた。
気まずい。
ここ数日、彼を敵視していたことがバレている気がする。
いや、ポテチに目はないのだが。
気持ちの問題である。
しかしまぁ、ここは年長者の私が声をかけるべきか。
「よぉ、新入りか。頑張れよ」
我ながら不器用なポテチだ。
すると若造は意外にも、少しだけ袋をしゅんとさせた態度を見せてきた。
『……ぶっちゃけさ。アンタは年中店に陳列されていいよな。
どうせオレなんて数ヶ月したら消える運命なんだぜ』
私は言葉に詰まった。
なんだ。
こいつ、ただのギラギラした若造ではなかったのか。
なにか、なにか掛ける言葉は…
「お前、キラキラしてて格好いいよ」
もっと気の聞いた言葉を言えないのか私は。
ポテチ生相談に対して、感想がキャッチコピーすぎるだろ。
しかし若造は、意外にも黙ってこちらを見ていた。
だから私も、少しだけ本音をこぼした。
「俺なんてさ。何十年もずっと同じ顔。同じ味。マンネリって言われて、若い奴らに飽きられるのが本当は毎日怖いんだ」
「お前みたいに、一瞬で誰かを狂わせる力なんて、俺にはないから」
そうだ。
私はもう、あの頃のように爆発的に売れる未来なんてない。
ただ、そこにあるいつもの味として、ただ選ばれるのを待っている。
定番とは、安定であり、同時に不安でもあるのだ。
『アンタ……意外といい奴なんだな』
「よせよ」
照れくさくなった私は、若造のパッケージの端を小突いた。
ほんの少しへこんだ。
ごめん。
「お前こそ。次のリニューアルで定番化するといいな」
ニンニクとチャーハンであれば、一定の層には刺さる。
夜中に濃い味を求める人間など、この世にいくらでもいる。
レギュラー化も、ショートケーキ味と比べれば夢ではないだろう。
そして私たちは袋の背中を寄せ合い、
ポテトチップス界の未来について熱く語り合った。
話が盛り上がり、すっかり仲良くなったそんな時。
入口の自動ドアがウィーンと開いた。
お決まりの入店ミュージックが軽やかに鳴る。
現れたのは、スウェット姿の女だった。
髪は少し乱れ、片手にはスマホ。
全身から「私は今から夜ふかしを始めます」という強い意志が出ている。
若造が早々に胸を張り、ゴールドの文字を一層光らせている。
まるであの頃の私のようで微笑ましい。
いけ、お前の時代だ。
私は彼に目配せする。
どちらが選ばれたって良いじゃないか。
私達は同じポテトチップス界を背負う同志なのだから。
女の手が、ゆっくりと棚へ伸びる。
さあ、お前が選ぶのはどっちだ…!?
ゴソ…
……あれ????
私達をスルーする女。
手に取ったそれは…
じゃがりこ(サラダ味)
「あー、やっぱりこれだよね〜」
「手は汚れないし、食べやすい♫」
何だと!!!!!
そこか?
そこなのか?
味でも歴史でも限定感でもなく、手が汚れないことなのか?
まて!!
手が汚れるのが嫌なら、専用のトングとか箸を使うとか!
最近の人間は便利グッズが好きだろ!
なぜ今だけ文明を捨てる!
しかし女は止まらない。
じゃがりこをひとつ、ふたつ。
ポンポンとかごに投げ入れる。
それにお前のその荒れた肌!体型!!
お前!!絶対彼氏とかいないだろ!だからもっと食ってもだいじょ…
ドンッ!!!!
ぐおあああああ!!!
女がよろめいた反動で、私の棚に肩が当たった。
私は陳列台からぐらりと大きく揺れ、次の瞬間、宙に投げ出された。
女性は落下していく私に見向きもしない。
じゃがりこを手にレジへと消えていく。
遠くで、若造が悲痛な声で私を呼んでいる。
落下しながら、私は走馬灯のように彼との会話を思い出す。
ポテトチップスとしてのプライド。
限定フレーバーの矜持。
定番商品の風格。
全てが私のボディと共に床に落ちていく。
私は床に倒れたまま、かすかに笑った。
大丈夫だ、若造。
選ばれない夜くらい、いくらでもある。
それでも明日になれば、また誰かが私達を手に取る。
…たぶん。
いや、できれば。
なるべく早めに、まじで。
Side ニンニクの若造
こちらはちなみさんのコラボ記事となっております🖌
違う視点からのポテチの物語もぜひお楽しみください✨



限定:日本人の大好きな今だけ!
安定:日本人の大好きないつもの!
結論。どっちも好きだ!!
ギトギトの塩まみれの指が一番美味しい‼️
異論は認める٩(๑òωó๑)۶