私はコーヒーが飲めない。
インスタ映えぇなカフェに友達と行っても、
私はコーヒーを頼めず、
コーヒーを飲む友の真正面で、
お子ちゃまなオレンジジュースをゴゴゴッとストローで吸っている。
別にそんな人生が気に入らないわけじゃない。
オレンジジュースは何歳になろうが美味い。
アラサーであれ、沁みる時はある。
だがしかし。
私も人生で一回くらいは、大人な飲み物でイキリたい。
小さな子供たちに、
「大人ってかっけぇ……!」
と思わせたい。
だが、私はここで一つの疑問を抱いた。
そもそもコーヒーは、本当に大人な飲み物なのだろうか。
よく考えてみれば、容器がおしゃんなだけ。
場所がカフェという大人ぁな空間なだけ。
所詮、ちょっといい香りがする黒い飲み物である。
つまり。
大事なのは中身ではない。
シチュエーションなのではないか。
そこ工夫すれば、オレンジジュースだって大人ぁな飲み物になれるはずだ。
そこで私は脳内に一軒のカフェを建設した。
ここで私は、
「オレンジジュースを大人っぽく飲む方法」
をシミュレーションしてみることにした。
ワイングラスに注いで、香りを確かめる
まずは形から入ろう。
いつものオレンジジュースを、いつものコップではなくワイングラスに注ぐ。
ワイングラスってのは素晴らしい。
入れるだけでなんでもリッチに感じられる。
オレンジジュースだって、ワイングラスに入れれば、ちょっとした黄色の何かになる。
グラスの脚を持ち、ゆっくりと回す。
くるくる。
そして鼻を近づけ、静かに香りを確かめる。
…オレンジだ。
もう一度嗅ぐ。
……オレンジだ。
驚くほどオレンジしかいない。
しかし、ここで「オレンジの匂いがする」と言ってはいけない。
大人ぁな雰囲気が開始30秒で終了する。
目を閉じる。
眉間に軽くシワを寄せる。
そして、静かに呟く。
「爽やかな柑橘の香り…その奥に、太陽を浴びた果実の力強さを感じますね…」
満足してラベルを見る。
濃縮還元。
太陽はどこへ。
ストローを卒業する
次に目をつけたのは、ストローである。
考えてみれば、こいつの存在がお子ちゃま感を加速させているのではないだろうか。
友人がコーヒーカップを静かに傾ける真正面で、私はいつもストローをゴゴゴゴゴッと吸っている。
最後の方なんて、もう氷しかないのにまだ吸っている。
ゴッ。
ゴゴッ。
もうない。
分かっている。
でも吸う。
やっぱりもうない。
…ガリッゴリッ
うっすーらオレンジ味になった氷を齧りだす。
いつものお決まりルーティンだ。
もしかすると、大人になるために必要なのはコーヒーではない。
ストローとの決別なのではないか。
私は脳内でストローを静かにテーブルへ置いた。
これから私は、己の口でオレンジジュースと向き合っていく。
ワイングラスを持ち上げ、優雅に一口。
……飲みにくい。
もう一口。
角度が分からん。
なんか鼻にも近づいてくる。
このままではオレンジが鼻に入り込んでオレンジしそうだ。
私は無言でストローをグラスに戻した。
チーズと合わせる
大人は何かしら、大人な飲み物とチーズを合わせたがる。
ワインとチーズ。
ウイスキーとチーズ。
よく分からないが、とにかく大人の世界ではチーズが横にいる。
ならばオレンジジュースにもチーズを合わせれば、理論上かなり大人になれるはずだ。
脳内スーパーで、ちょっと良さそうなチーズを購入する。
普段なら絶対に買わないタイプの、名前を見ても何者なのかよく分からないチーズを。
それを皿に盛り、隣にワイングラスのオレンジジュースを置く。
…完璧だ。
見た目だけなら、今から世界の経済について話し始めてもおかしくない。
チーズをひとかじり。
オレンジジュースを一口。
…
合うのか?
もう一度チーズ。
もう一度オレンジ。
…分からん。
ただ、チーズとオレンジジュースを交互に摂取しているアラサー女がいる。
だが大人はこういう時、味が分からなくても堂々としているものだ。
私は静かに頷く。
「なるほど。これはマリアージュですね」
何と何が結婚したんだ。
私の脳内に木村カエラの『Butterfly』が流れてこない。
多分、破談した。
「いつもの」と注文する
大人には行きつけの店がある。
そして行きつけの店では、メニューなんて見ない。
席に座り、マスターと目を合わせて一言。
「マスター、いつもの」
これだ。
このセリフですよ。
くっそぉ。
めちゃくちゃ言いたい。
というわけで、脳内カフェに入店する。
店員さんがにこやかなスマイルでこちらにやってくる。
「ご注文はお決まりですか?」
私はメニューすら開かない。
少しだけ顎を上げ、そして言う。
「いつものを一つ」
店員さんが止まった。
私も止まった。
店員さんは私の「いつも」を知らない。
なんなら私も、この店のことを脳内で3分前に建設したばかりだ。
数秒の沈黙。
「あの……」
「……オレンジジュースで」
結局、自白。
しかも店員さんが去ったあと、なんとなくメニューを確認してみる。
オレンジジュースはキッズドリンクの欄にいた。
「いつもの」でイキった女は、キッズメニューを注文していた。
「ロックで」と追加注文する
最後は、注文方法で攻めよう。
大人がバーで言っているイメージのある、あの言葉。
「ロックで」
かっこいい。
言葉だけでアルコール度数が20%くらい上がった気がする。
オレンジジュースを飲み終えた私は、再び脳内店員さんを呼ぶ。
「さっきのドリンク、もう一杯」
ここで一拍置く。
そして低めの声で、
「ロックで」
店員さんがこちらを見る。
私は目を逸らさない。
ここで目を逸らしたら負けだ。
「少々お待ちください」
数分後。
テーブルにグラスが置かれる。
細かな氷の入った、
ふっつーのオレンジジュース。
私はグラスを持ち上げる。
私は静かに一口飲んだ。
うまい。
その瞬間、隣の席から子供の声が聞こえてきた。
「ママ、あれ飲みたい!」
私のグラスを指差している。
違うぞ坊や。
これはこどものドリンクではない。
ロックだ。
大人が静かな夜に嗜む、ロックだ。
「オレンジジューチュ飲みたーい!」
…
私は静かにグラスを置いた。
どうやら大人への道は、
果汁100%では辿り着けないらしい。
今日も私はストローを刺して、ゴゴゴッと飲もう。
オレンジジュースは何歳になろうが美味いのだから。
そして隣では夫が、
今日も2リットルのコーラを直で飲んでいる。
こどもたちよ。
大人になるのは、そんなに急がなくていいぞ。
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先日のスイーツ会で、女性陣が優雅にシャンパンを傾ける中、ひとりマンゴージュースをオーダーした男が通りますよw
しらすは稚魚なんだから、大人ぶらなくてよくない?可愛らしくしてればいいのよww
コーヒー飲めなくて果汁100%ジュースニなるの分かりすぎて。
いっそのこと、カップルストローとか?